コメント
かつて、危険で厳しい労働の最前線として炭鉱労働があった。日本は、そういう最前線の労働を、今後は外国人労働者に移し替えていこうとしている。この映画は、日本の産業構造が変わっていないことを教えてくれる。
桐野 夏生
(作家)
時代の影に見える涙
炭鉱夫の方々の、明日どうなるか分からない地の底での過酷な重労働
人生の辛酸を味わってきたからこそ、涙だけではなく絵の色のトーンに優しさを感じ、ユーモアや可愛らしささえ感じる時がある
本当に意味の奥深さがあるのに心の濁りを感じない
涙の道のりに 敬意と愛をこめて
IKKO
(美容家)
だれかナニカを伝えたい。とおもうことがある人がいるのだろうか。しかも全身を使ってだ。山本作兵衛さんは見事にイノチのことを全身を使って絵にして、僕に教えて下さった。
黒田 征太郎
(イラストレーター)
作兵衛さんの絵に事細かに描かれた炭鉱労働者の生活から、もう失われた日本の文化が見えてきます。負の文化といえども、そこには共同体が機能していました。「記憶遺産」とはよく言ったものです。
ピーター・バラカン
(ブロードキャスター)
作兵衛さんは、子や孫に残しておきたいと穏やかに言いながら、“日本という国の縮図”として捉えていた炭鉱の記憶を、2000枚を越す記録画に仕上げていく。
ときにユーモアを交えながら、日々の暮らしの中で淡々と描き続けるその手つきを想像すると、何も持たぬ民衆にとって、“記録すること”が、巨大なうねりに対抗する最初にして最大の行為になりえるのだと思えてくる。
作兵衛さんの静かな社会運動は、いまを生きる我々にも大きな力を与えてくれる。
瀬尾 夏美
(アーティスト)
私は若い頃、山本作兵衛おじいさんの絵を、ワケもわからずに模写したことがあります。 現代美術の作家・菊畑茂久馬先生の、それが授業だったのです。ほとんど説明なしにひたすら模写した。この経験はかけがえのないものだったと思っています。おじいさんと一緒に焼酎を飲んだのも素晴らしい思い出です。
南 伸坊
(イラストレーター)
山本作兵衛の画文集『筑豊炭坑絵巻』が、福岡市のちいさな出版社から出されたのは46年前。地の底の暗闇の世界が、ガスカンテラの光に照らしだされ、豪華絢爛、まばゆい世界としてあらわれた。この映画の完成によって、その衝撃と感動がさらに世界にひろがるのはまちがいない。
鎌田 慧
(ルポライター)
「眼が怖かった」山本作兵衛翁のお孫さん、井上忠俊さんが映画の中で語るシーンがある。 眼か。そうだ、その通り。生きるために石炭を掘り続けた。その底力が、眼の光から放たれているのだ。だからこそ翁の絵は、我々を魅了して止まないのだろう。 現代人の失った力が、ここには溢れている。
西村 健
(作家)
石炭棄民から原発棄民へ。石油棄民もあった。日本の生命線といわれた南方戦線で、無駄死にを強いられた兵士たちだ。日本は変わらない。
原発棄民は作兵衛さんのような作品を生むだろうか?上野英信や森崎和江のような思想を生むだろうか?受難が生む民衆の記憶から、わたしたちは何を学べばいいのだろう。
上野 千鶴子
(社会学者)
1960年代に日本から世界のアートシーンへと肉薄した福岡の新鋭、前衛画家の菊畑茂久馬。その菊畑をして以来、20年にもわたって筆を折らせたのは、ひとりの老いた元炭鉱夫との出会いだった。世界のアートシーンどころか、日本の美術界ともまったく無縁の山本作兵衛の絵と言葉がそうさせたのだ。この映画を見て、その選択は改めて正しかったと思う。
椹木 野衣
(美術批評家)
戦時の狂乱、敗戦から高度成長、バブル経済の崩壊を経て、現在へ。安っぽい「日本スゴイ論」が溢れかえるなかで、本当にすごい日本人が、地の底で見た光景を描き続け、亡くなった。自らも炭坑夫であった山本作兵衛さんの、他に類を見ない作品の数々は、日本の近代化のみならず、世界中のあらゆる発展への道が、どのような人々によって切り拓かれ、踏みなら されてきたのか、ありありと蘇らせ、見せてくれるものだ。地表の華やかな花弁を支えるために、根と根の狭間でうごめく、小さな影、小さな歓び、小さな悲鳴、小さな死。見過ごされ続けて来たこれら微かな記憶の断片は、独りの在野の画家の手によって繋ぎ合わされ、世界の大きな記憶を埋めるものに変わった。まっくろの手がうごめく。こんな人々が、いまも存在している。世界中のあらゆる暗がりで。豊かさという奇妙な夢を支えるために。
七尾 旅人
(シンガーソングライター)
半世紀前に消えたはずの炭鉱が、作兵衛さんの絵と熊谷監督の映像で、みごとによみがえってる! 炭鉱は今日の労働問題やエネルギー政策の原点といえる場所。「炭鉱は文化を生み出したが、原発は文化を生み出さなかった」という監督の言葉の意味を、あらためて噛みしめました。
斎藤 美奈子
(文芸評論家)
苛酷な環境の坑内で働く女坑夫の姿を、山本作兵衛は数多く画いている。その女坑夫たちの顔を熊谷さんは、クローズアップでじっと凝視(みつ)める。すなわち私たちに凝視(みつ)めさせる。石炭を掘る夫を見る妻の顔、坑内に連れてきた赤児を振り返る母の顔、そして炭車を必死に押す労働者の顔。
その度に私は -- 息を呑んだ。美しい。
今野 勉
(テレビ演出家)
リトアニアの日本学科の学生が、「心に響く」と言った。たしかに私の心にも響いた。遠い昔の地の底から、作兵衛さんが尊敬と愛情をもってすくい上げた、男、女、子どもの真剣な息遣い。ドキュメンタリーは、材を取るよりも、集めた材を捨てる作業が大変だろう。筑豊に生きたさまざまな人びとから、声や表情を少しずつ切り取り、深々と組み上げたひとりの坑夫、ひとつの歴史。響き止まない、あのゴットン。
池田 香代子
(翻訳家)
本来なら、つらく厳しい「労働画」であるはずの作兵衛さんの絵は、なぜかとてもやさしい。映画はその厳しさと優しさの根源に迫る。熊谷監督にとっては『三池~終わらない炭鉱の物語』に続く炭鉱(やま)の物語。これは、作兵衛さんへの鎮魂歌であると同時に、すでに壊れかけている日本という国へのレクイエム・・。
鈴木 耕
(編集者・ライター)
炭鉱労働を丁寧に描写した作兵衛さんの絵はどこか温かい。その絵が人をつなぎ、「命を削るシステム」の連なりを現代に突きつけている。真っ先に思い浮かぶのは原発労働だ。あの頃から何が変わったのだろう。いつ「誰かの犠牲」の上に生きることが終わるのか。厳しさと、現場の人の営みと温もりを感じるこの映画が、静かに問いかけてくる。
吉田 千亜
(フリーライター)
順不同・敬称略